6月11日の日経新聞朝刊1面に「長期金利 世界で低下」という見出しの記事があった。

 記事の内容を要約すると次のようである。

「 日本では10年物国債利回りが年マイナス0.155%と過去最低を更新。世界全体でも国債残高の半分近くがマイナス金利となる異例の事態。企業の成長期待が落ち込み、金利が低くても借金して成長に向け投資する動きが著しく鈍っている。中央銀行が強力な金融緩和をしても経済成長につながらない。

 国債の金利は、教科書的には、その国の成長期待と物価上昇予想、政府債務への警戒感で決まるとされる。今回の金利低下の要因のひとつには、中央銀行がデフレ(継続的物価下落)を嫌って、市中に通貨を流し込むため、国債を市中から買い上げていることがある。しかし、何といっても大きな要因は、先進国に対する経済成長期待が著しく萎んでいることにある。優良企業は、最高益を更新する中、現預金が積み上がって過去最高水準に達しているが、設備投資に向けることはせず、株主還元(配当や自社株買い)に資金を回している。また、日本、米国、ドイツという先進3カ国の経済成長率、労働生産性、金利のグラフを掲げて、経済成長率や労働生産性の伸びが鈍化していることと、金利低下との正の相関関係があることを示して、先進国は新たな成長機会の獲得に向けた「構造改革」が必要だ。 」 

と解説している。 

 金利は、そもそも、その国の民間企業が設備投資資金や事業運転資金を借り入れるためのコストであるが、これがこれほど低下したにもかかわらず、借り入れしない行動を取っているのは、民間企業のマインドとして、ビジネスの中に収益機会がないと判断していることに他ならない。すなわち、儲けられる分野や方法がないため、設備投資等に資金を使用しないこととなり、これは、お金を持っている人(資本家・投資家)が、その保有資金で儲けられなくなったことを意味する。資本主義は、こうした資本家が資金を成長分野に振り向けていくことで発展するのであるが、こうした資金を投じるに足る成長分野が世界中からなくなりつつあることを意味している。恐ろしい状況になってきたな、と感じる。

 というのは、仮にある分野が有望と判断されると、世界中の資金がその分野に流れ込んで、一種のバブル状態を生み出しやすくしてしまう。少し前までの現象では、新興国に投資するという動きである(現在は、中国をはじめとするアジア各国の景気には不安があり、資金が集まりにくくなっている。)。今後の景気変動は、バブル多発型経済に陥ることになると思われる。バブルがよくないのは、その後始末が大変だからだ。必ずと行っていいほど、政府の景気刺激策や信用システム等の維持のために、金融機関等に資金を注入することになり、それは経済的強者に資金を集めることにつながり、経済格差を生み出す。

 燃料電池車やIoT、人工知能などの新しいイノベーションが起こるとも言われているが、全世界の景気を牽引するほどの有効需要を生み出すことはできないだろう。1年ぐらい前まで、かつてのような高度成長がいつかあるかも知れないと思っていたが、それはほとんど期待できないと思うようになった。我々は、否応なく、現在の経済システムの中にいるのであり、今後、どのような景気変動をたどるのか、今から注視して、来たるべき嵐に備えなければならない。国に頼ろうとするのは誤りだ。状況は、国の方が大変だからである。

 平成28年6月11日  参院選・英国のEU離脱の国民投票・米国の大統領選近しの時期に

 公認会計士 村山秀幸