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コラム

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代表的日本人

 内村鑑三が、「代表的日本人」を著したのは、1908年です。この著作は、日本の文化や精神を「英語」で、西欧に紹介することを目的に出版されました。この本の他にも、この当時、日本を紹介した書物には、新渡戸稲造の「武士道」(1900年)、岡倉天心の「茶の本」(1906年)があります。新渡戸稲造は、「我、太平洋の架け橋たらん」とした国際人で国際連盟の事務次長や東京女子大学の初代学長などの要職を務めていますが、精神的バックボーンが、欧米諸国がキリスト教なのに対して、日本人は武士道という誠の道で貫かれていたことを「武士道」という著作で説明しています。この「武士道」という著作は私も読んだことがあり、多くの啓発を受けました。翻訳の簡易版も相当な数に上っていると思われ、手軽に読んでいる人も多いと思われます。

 今回、私が読んだ「代表的日本人」は、時代も分野も異なる5人の日本人の生き方や生涯を、とりわけ、その人の内面である精神を西欧諸国に紹介しようとした意欲作です。代表的日本人として、内村鑑三が挙げているのは、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の5人で、この順番に記述されています。内村鑑三は、キリスト教信徒であり、西欧に対して、キリスト教が日本になかった時代から、キリスト教徒に勝るとも劣らない人たちがいたことを理解してもらおうとしたためです。西郷隆盛から日蓮上人まで、年代を明治・江戸時代から鎌倉時代までをさかのぼっていることから、日本人は聖書の教義にも通じる大切な教えを遙か以前から知って体現していたこと、徳や人の道を重んじていたことを伝えようとしたのだと思います。そして、さらに、近代の西洋文化と、それを安易かつ無批判に受け入れてきた近代日本を憂い、欧米人だけでなく、当然に日本人にも読んでもらおうとしていたものと思います。

 西郷隆盛、二宮尊徳(二宮金次郎)、日蓮上人の3人は、有名ですから、それぞれの人がどのような生涯をたどったのかは、だいたい一般的に知っていると思います。しかし、上杉鷹山や中江藤樹の生涯や成し遂げたことは、知らない人が多いと思われます。上杉鷹山は、江戸時代の封建藩主として、極めて危機的であった米沢藩の財政を立て直し、領民の所得を上げ、地域経済や文化水準を大幅に上げた人物として知られています。1608年(関ヶ原の戦いは1600年)に生まれた中江藤樹は近江聖人と呼ばれ、現在の滋賀県高島市で、私塾を開設し、徳行を説き、近江の人たちの精神文化を高めたとされています。40歳の若さで亡くなるのですが、中江藤樹記念館があるように、今から約400年前の人のことを地元の人たちは敬意を払っています。

 以前、米沢市出身の会計士の先生から、米国の故ケネディ大統領が日本で最も尊敬する政治家は上杉鷹山であるという話を聞いたとき、なぜ、日本人にとってマイナーな人を米国大統領が知っているのかを不思議に思っていましたが、内村鑑三が西欧に英語で紹介したからなんだと、この本を読んではじめて合点がいきました。

 一般的な日本人にとっては無名に近い偉人を、遙か100年以上前に紹介し、かつ、日本人としての精神的な高貴さを西欧諸国に説いた内村鑑三の慧眼と見識に、改めて凄さを感じました。大河ドラマでは、西郷隆盛が今年の主人公になっていますが、今頃?という感じがします。

 平成30112日   古典は温故知新ですね!       公認会計士 村山秀幸